最後のお弁当

容赦なく 時は過ぎ

今日は 最後のお弁当。

初めてのお弁当の あの日

「お弁当まだ?」

「お弁当食べる」と

まだ10時にもならないのに

食べようとするので

気をそらすのに 一苦労だった。

子どもも保育者も

今を充実させるために

無我夢中。

一生けんめい 今を生きているうちに

今が積み重なって

いつの間にか 知らずしらず

ああ、育ってきた。

そう実感したとたんに

もう明後日は 卒園式だ。

自分への 信頼感。

旺盛な意思と意欲。

目的に向かって 打ち込んで疲れず

持って生まれた自分の力を

精一杯使い

感じ考え 判断して

柔らかく広い心で

お友達とともに 生き生きと生活する。

生きる力が育ってきたのだ。

小さい森さんたちは

卒園式に 短いながらお別れの歌をうたう。

お別れの意味など わかっていないのだけれど。

それで 大きい人たちは

歌詞カードならぬ 絵入りのペープサートで

小さい人たちの歌を

応援するのだ。

卒園式を楽しみにしている 山さんたち。

卒園する 山さんたちだって

卒園の意味は 本当にはわからない。

お母様たちは 毎日お弁当に変身して

子どもたちの心身を 支えてきた。

幼稚園選びをなさっていた あの頃。

自分の力に自信がなく

給食の幼稚園にしようかと

迷った方もあったのでは。

“便利”を選ばず

手をかけ 心をかける幼稚園に決めた

そのご自身の心意気に

今は 拍手を送りたいのでは。

最後のお弁当だからと

母の愛と気合が込められて

嬉しかったり驚いたりの 山さんたち。

お手紙入りの トクベツ弁当あり

いつもとおんなじ 日常弁当ありで

どちらも お母様のお心が感じられる。

「うちは お手紙入ってないけど

心がつながっているから いいんだよ」

そう言う くいしんぼ男児に

「お手紙 食べられないもんね」

「うん そうだよ」と

暖かい心のやり取りが。

お互いを知り尽くした

こんな会話を 聞くことができて

幼稚園の先生になって よかったと思う。

お母さんのお弁当は お母さんそのものだ。

お母さんが 一生けんめい作ったお弁当を

心と身体に詰め込んで

また お友達との

一生けんめいな遊びが 始まるのだ。

子どもたちの一生けんめいを支えた お弁当。

ありがとう お弁当。

ありがとう お母様たち。

ありがとう ありがとうーーー!